過去形

残念ながら筆者が住むセネガルのチームは負けてしまいました(2002年のワールドカップの話です)。決勝トーナメントまで残った唯一のアフリカ勢だったのですが。トルコのシュートが決まった瞬間、ダカールの町のあちらこちらから悲鳴が聞こえてきました。

今日の試合をフランス語で聞いていて「ああそう言うのか」と思ったのが、「ボールが外へ出る」という表現でした。

Le ballon est sorti.

est は etre つまりスペイン語の ser や estar に該当する be 動詞の三人称単数。そして sorti は「出る」という単語 sortir の過去分詞です。

筆者は sortir という単語を「家から出る・外出する」という意味で記憶していたので、ボールが外に出る時にもこの単語を使うのか、と思ったのでした。

さて、それはともかく、

Le ballon est sorti.

は文法的にはどうなっているのか?というところから今回の話は始まります。これをスペイン語に無理やり直訳すると、

El balón está salido.

でしょうか。

単語はフランス語と一対一で対応していますし、これなら「ボールは出ちゃっている」というニュアンスになりますから意味的にも通じます(本当にこんな言い方をするかは知りませんが)。しかし文法的には、salido は過去分詞を形容詞として用いて、está という状態を表す be 動詞をくっつけているのに対し、フランス語の sorti は形容詞ではなく、この場合の est は助動詞という扱いになっています。

このスペイン語の文は現在形でボールの状態を表していますが、フランス語のほうはテレビでは「ボールが出た」という過去形として話されていました。

こうした過去分詞を使って表現する過去形を、フランス語では「複合過去」と呼び、avoir あるいは être との組み合わせで使われます。この場合の avoir あるいは être は、助動詞となります。

avoir + 過去分詞であれば、スペイン語の haber + 過去分詞で表現する現在完了と同じのように思いますが、フランス語ではどうやら現在完了的なニュアンスと同時に、特に口語では、スペイン語の点過去、例えば「ボールが出た」

El balón slió.

のような意味でも使われるようです。いや、むしろこうした点過去の意味の方が主になっているのかもしれません。

フランス語から入った方は印象が違うのかもしれませんが、スペイン語をもとにフランス語の過去形との対照を整理すると以下のような感じになると思います。

スペイン語  フランス語

現在完了   複合過去
点過去    複合過去(口語)・単純過去(文章)
線過去    半過去

haber しか使わないスペイン語の現在完了の場合と違い、フランス語の複合過去は être を使う単語があること、さらに être を使う場合には、過去分詞を主語の性数と一致させる必要があること、などが注意点です。

筆者には最初 être を使うケースは、文法的にはスペイン語で estar + 過去分詞から派生した形容詞、と同じとしか思えなかったのですが、ニュアンス的には過去の動作を示すようで、やはり違いがあるようです。